文筆業 切通理作インタビュー(3)

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牛田:文筆業は孤独な感じがするのですが、何か書いてはげみになったことなどありますか。


切通:昔、僕の最初の本『怪獣使いと少年』を川本三郎さんが読んでくれて、「細部が豊かなので、大きな論が浮かび上がってこないのがいいです」って葉書を頂いたのですね。僕は作家論など書くときには、この言葉を座右の銘にしています。細かすぎて論が浮かび上がってこないきらいがあるというのは批判にも使えますよね。でも川本さんはそれがいいって言ってくれたんですね。それで映画とかアニメを対象にするときには、もちろん言いたいことはあるのですが、細部のほうを大事にしようって思ったのです。僕は書き方に二系列あって、社会評論系はすぐに言いたいことがわかる表現にしようと思います。作品論、作家論系は、読んでくれた人が、言いたいことがすぐに浮かびあがってこないようにしています。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞をいただいたときの審査委員に川本三郎さんがいらっしゃったので、その点を認めてくれたのかなって思ってうれしかったですね。


牛田:資料集めはたいへんでしたか。


切通:『宮崎駿の〈世界〉』のために集めたものもあるけど、多くは宮崎アニメが公開されるその都度買っていたのです。だから買ってないものも目星がついていたので、それほど大変ではなかったですね。モノはあまり捨てない方なので。


牛田:『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)や『特撮黙示録』(太田出版、2002年)は多くの資料を見ないとできませんよね。


切通:僕の書き方としては資料を調べながら書くというのではなくて、記憶で先に書いてしまうんです。資料がたくさんあって書いていくと、情報に邪魔されて、最初に観たときの感想と遠いものになってしまう。最初は印象だけで、その後実際どんなディテールだったのか参照する。もちろん結果論旨の方が変わってしまうこともあるのですが、それはそれで飽きないですからね。


牛田:切通さんはインタビュー以前に日芸で特別授業をされたのですが、終わった後に学生たちが、批評だけど論旨に優しさがあって、聞いていて嫌な感じがしないと。


切通:その学生さんの言葉はうれしいのですが、ある方から「これは宮崎監督へのラヴレターだね」って言われたことがあります。僕はそれが心外だったんです。もちろん宮崎駿作品も山田洋次作品も好きですけど、作品に対して愛があるというところに寄りかかるのは好きではないですね。やはり宮崎作品、山田作品を二本ぐらいしか観たことない読者から読んでもらいたいですから。


牛田:宮崎監督と山田監督が、切通さんの御著書を読んで喜ぶかどうかはかなり疑問ですが、作品に対して優しい感じがします。そこに切通さんの個性が出ていると思いました。


切通:優しいかどうかはわからないけれど、一度見て切り捨てるというのではなく、作品を自分に対しても色んな刺激にしていった方がいいと思うときはあります。例えば『魔女の宅急便』は公開で見たとき、これまでの『ナウシカ』、『ラピュタ』、『トトロ』というオリジナル三部作と比べると純度が低いと思ったんです。でも本のための作業で『ナウシカ』を観た次の日に『ラピュタ』『トトロ』と続けて観てから『宅急便』を観ると、宮崎駿が広げようと思った方向性が見えてきた。そこに気づいたことも無視できない。同時代の観客としては、たとえば前に『トトロ』があれば次の作品も『トトロ』のような世界観を期待してしまうところがある。前の満足度を知らず知らずのうちに求めてしまう。そして観た直後にこの作品は良い、悪いと判断を下してその後見返す機会も作らない。ですから本を書くために作品と出会い直すのは違った見方が出来るひとつのきっかけだし、それを提示できるところがありますね。
『耳をすませば』『もののけ姫』は公開直前にも雑誌に批評を書いているのですが、その時にはやや懐疑的な要素が強い文でした。『宮崎駿の〈世界〉』では、だいぶそれが変わっています。「切通は日和った」とかインターネットで言われましたね。でもこれはジブリに許可をとって書いている本ではないし、おもねる必要はない。ただ作家論として順番通りに観てみると自然にそうなっていったのですね。それが「優しい」といわれる理由かもしれない。


牛田:宮崎駿作品も寅さんもコアなファンが多いので、作品を論じるのは難しいなって思います。


切通:厳しく言い過ぎるのも馴れ合いに感じることもありますよね。好きな作品との距離が取れなくなって、作品を自分の所有物のように思ってしまい、かえってこき下ろして書いてしまったりする場合もある。そういう文章を読んで違和感を持つこともあります。過剰に褒めることもないけど、過剰にこき下ろすこともないんじゃないかなと思います。

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