宗教学者・島田裕巳(5)

宗教学者・島田裕巳

メディア・バッシングと闘う


―― それにしても、先生は当時、大変なメディア・バッシングを経験されています。それも、事実誤認報道で。


島田 誰かがなにかを言うと、みんなそれに続いてくるよね。日本女子大のときも、まわりの先生たちは守ってくれたんだけれど、だんだん、状況が悪くなってくると、皆、仕方がないと考えが変わってくる。いま考えると、叩く側、人をやめさせる側に回らなくてよかったな、と思いますけれどね。


 思うんだけれども、マイナスをたくさん重ねると、プラスに転じることもある、と。逆に、マイナスすらないと、苦しいものだよ、案外。ハンディキャップのある人の方が、逆に、前向きに人生を組み立てていることが多いですよね。今の世の中みたいに、豊かでプラスばかりの状況って、かえって苦しいものじゃないのかなあ。


 マイナスを積極的に溜めることも、時には大事だと思います。恐れることはないんですよ。マイナスを溜める形で、社会とぶつからないと、いいものはできてこない。マイナスを溜めて、それを逆転させる契機を得ることが重要ですよね。


―― マイナスを溜める、という気持ちでいつも強く生きていたいです。でも、今も、ネット上には、ありとあらゆる誹謗中傷が蔓延しています。それによって傷ついたときに、どうやって克服すべきでしょうか。


島田 良きにつけ悪しきにつけ、すでにそういう社会になってしまっているんですよね。下手に反応すると、また、つっこまれる。それに傷つかないというのは無理でしょう。耐えるのが一番だね。今すぐは、つじつまが合わないだろうけれど、長いスパンで考えてみると、自分を一回り大きくさせるプロセスになるかも。


 僕も日本女子大を辞めさせられて、そこまで言えるようになるまで、十年かかったもの。長い時間で捉えると、忘れるという意味ではなく、つじつまが合うこともあるんです。それを期待しようよ。そこでまた、誰かを攻撃しようとすると、もっと悪いことに陥ってしまう。


よく、「なぜ自分だけが」って言うんだけれど、そこで加害者になってしまうと、決定的な敗北じゃないかな。それだけにはならないことだね。人をいじめる人間には、きっと天罰が下ると思うよ(笑)。世の中には必然というものがあって、間違ったことをやった人は、どこかで人生を踏み外していますね。僕にとって、そう考えるのが、一番楽です。なにか悪いことをしたら、そのときはいいように思えても、あとで大変な目にあうからね。


――なるほど、そうですね、確かに・・・・

 
島田 メディア・バッシングと言えば、最近もあって。相手は太田光氏なんだけどね(笑)。まず『憲法九条を世界遺産に』の本を読んだんです。そうしたら、太田氏が文章を書いていて、内容的には面白かったんだけれど、それを読んだときに、なんというか言い表し辛いんだけれども、太田氏が書いた文章のようには感じられなかったんですよ。もっと年をとった、文章に慣れた人が書いたもののような印象を受けたんです。


その印象を、僕がブログに書いたら、その二~三日後にアクセス数が急に増えて。通常、一〇〇人前後なのに、二〇〇〇人とかね。調べてみたら、太田氏がラジオの番組で、僕のブログについて怒っていたらしいんですよ。僕の名前は言わなかったらしいけれど。その途端にアクセス数が増えていた。


 そしてコメント欄に、ある人物が、「太田さんに謝れ」っていう旨のコメントを書き込んで、その後から、同じようなコメントがどんどん入ってきて。それで、すぐコメント欄を閉じたんだけれど、あれを放置していたら、「炎上」していただろうね。人間って、最初は冷静なんだけれど、ある突破口、これに乗っていいんだっていう状況が一度生まれると、どんどんそれに便乗してくるということを学びました。


――先生のブログで、そんなことが起きていたんですね。


島田 ブログを開いていると、仕事が来るというのもあるし、何か起こったときの防衛にも使えるかな、と考えています。スキャンダルを弁明する、ひとつの発言の場、僕の個人メディアです。


 一方で、オウム事件のころは、組織に属していたから、状況がとても厄介でした。組織に属していると、まず、組織の中で発言を制限されます。だけど、今は個人としてやっているからね。結局、組織に属している人が、一番ターゲットにされやすいし、叩かれやすいんですよね。僕も昔、組織の中で怪文書を回されて、本当に迷惑しました。


―― そんなことがあったみたいですね。本当に大変でしたね。


島田 あれ以来僕は、なるべく人と仲良くするように心がけていますよ。オウム事件のころ、有田芳生氏が批判してきたんだけれど、あるとき、彼が僕の講演に来たんです。そのあと、少しずつ親しい関係になっていってね。弁護士の滝本太郎氏も、はじめは仲が悪かったんだけれど、僕が彼のいるところまで訪ねていったら、フィリピンパブに連れていってくれたよ(笑)。


 「イニシエーション」構造ではないけれど、僕も少しずつ大人になってきているのかな。若いころは、意識として、相手の意見を突っぱねるんだよね。でも、それだけじゃ、世間は渡って行けないことに気がついて、地道に、付き合いのネットワークを広げていってますよ。

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