編集者・新井信(8)

畑正憲、東海林さだおとの思い出
山下 他にも、新井先生は多くの作家を発掘し、本を作られていますね。桐島洋子さん、沢木耕太郎さん、千葉敦子さん、東海林さだおさん、それから畑正憲さんのムツゴロウシリーズも手がけていらっしゃいますね。
新井 畑さんの場合はねえ、すでに出ていた動物の本を読んでいたら、もしかしたら人間のことのほうが書きたいんじゃないかと思って、その頃彼が住んでいた相鉄線沿線までエッチラコッチラと出かけて行った。「そうです。じつは書きたいものがあるんです」ということになった。だけど、掘りコタツで話をしていたんですが、足元がゴソゴソする。何かいるんですかと尋ねると、ガマガエルがコタツの中で何匹も冬眠してるんですよ。びっくりしたなあ。そのときに書いて貰ったのがベストセラーになった『ムツゴロウの青春記』です。それからお付き合いが始まって、無人島生活をしたときも、北海道の北の果てまで何回も通いました。海が荒れると島に閉じ込められてしまって帰れない。打ち上げられた数十匹の花咲ガニを風呂桶で茹でて豪快に食べたのを思い出しますねえ。動物王国を作ったときも通いましたけれど、入口を入ると犬が数十匹もこちらへ向かって猛然と走ってくる。引いてはいけない、原稿を取りにきたんだぞと、顔中、カラダ全体を犬になめられ、よだれだらけで立ち尽くしていたこともあります。

東海林さだおさんと初めて会ったのは、私が週刊誌にいた時です。当時のデスクでいま昭和史の専門家になっている半藤一利が、連載漫画をお前の好きなようにしていいよというんです。とにかく、新人を起用して風穴を開けたいと思っていましたから、漫画専門誌でしか活躍していなかった彼に頼みに行くことにしました。中野駅近くの木賃アパートの暗がりからモサっと出てきて、一般週刊誌からの連載依頼に驚いていました。タンマ君というタイトルが決まるまで、何度も二人でああでもないこうでもないとやりました。最初のうちは絵もあまりお上手でなく、固くなったせいか面白味がうまく出ない。編集長は毎週役員会から帰ってくるたびに、あれは大丈夫かねというんです。その『タンマ君』がもう連載35年以上も続いているんですよ。文章を書いても、あの独特の文体で数十冊も本を出す売れっ子。椎名誠をはじめ、その後に続くエッセイスト分野でも兄貴株ですね。いまだに昔話をしながら居酒屋で一緒に飲んだりします。
- 2007年02月20日
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