編集者・新井信(6)

著者と編集者の関係は男と女の関係にも似ている
山下 書籍編集者の仕事についてもう少し詳しく聞かせてください。
新井 書籍の編集者には、大きく分けて三種類のタイプがあります。新人を発掘する人、既存の著者との関係をメインテナンスする人、職人的に本作りの上手な人、それぞれに得意がありますね。もっともそれぞれの比重の問題ですけどね。
私は一番目の編集者タイプを目標にやってきました。処女作を自分が手がけるっていうことは、ひとつの優先権を得たことでもあるんです。さらに望めば、他社に浮気をしないで、本は当社からだけ出してくれることです。アメリカなどではエージェントがなかに入って、著者は特定出版社の専属のようになっています。日本の場合は、作家はいろいろな社から本を出してマーケットを広げたいと思うのは自然なことでしょう。それでも、伊丹十三さんや東海林さだおさんなんかは浮気をせず文春だけから本を出してくれましたし、私が担当したほとんどの著者がうちを大事にしてくれたのは、編集者にとって最大の幸せでしたね。
著者と編集者との関係は、いわば男と女の関係に似ているかもしれませんね。始終、著者に電話をしたり、手紙を書いたり、メシを食ったり、コンスタントにコミュニケーションを保つことが必要ですよね。後発の編集者ほど、「先生、先生」って著者に言い寄ってくる。そうなれば、著者だって悪い気はしません。無名な頃を知られているのを疎ましく思う著者もいるでしょうしね。つねにラブコール、ラブレターしていないといけないんです。放っておいた隙に著者を他社へ持っていかれることも多いんです。
山下 畑正憲さんもおっしゃっていました。月に1回くらい、間があいて長くても3カ月に一度は必ず新井さんから連絡がくると。別に仕事の話ではなく、さりげない話をするだけだけど、しみじみやる気が起きるとおっしゃっていて。編集者は、マメな男であり、一流のホスト(笑)のようであり、人間関係の達人でないといけないんですね。
新井 けれど、関係がベタっとなり過ぎると、それはそれで難しいわけです。程よい距離を保っていくことは大事です。長いスパンで見ると、著者が売れているときはいいけれど、売れなくなったときには、著者と会社のソロバン勘定との板ばさみになります。距離感とバランス、それを怠ると、後で自分が困った立場に立つわけです。それでも、大抵の編集者は当然、作家側に立ってしまうものですからね。
ほど良い距離を保ちながら、いかにその著者と信頼間を保っていけるか。その人が他社に書いたものでも常に目を通しておき、すぐに電話、手紙で連絡する。「あれは面白かったですよ」って。著者が書きたかった部分を的確に指摘できれば、こいつは良く読んでくれているという信頼感も増します。ただ、編集者は出すぎた真似は絶対してはいけない。作家の私生活も女性関係も知ってしまうのだから、口は固くないといけないんです。酒場で悪いウワサ話をすれば、翌日には当人に知られてしまうほど、この世界は狭いし、ゴシップ好きの業界ですからね。
- 2007年02月20日
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