森詠インタヴュー(2)  ?森詠という人間?

 作家 森詠

藤井 先生が作家になろうと思われたのはいつごろですか。またきっかけがあったらおしえていただけますか。

先生 最初は作家になろうとは思っていなくて、世界を飛び回るジャーナリストになりたいと思っていたんですよ。ジョン・ガンサーとかロバート・キャパに憧れてジャーナリズムの世界から物書きの道に入りました。小説家に変わったのは、ある時点で自分はジャーナリストに向いていないという事に気がついたからです。中東の取材に行って辛い悲劇を見てこれをジャーナリズムの方法で書くのはつらすぎると思ったんですよ。もともと空想が好きで、1984年にはっきりとジャーナリストを辞めて小説家になりました。「振り返れば、風」という一種の自伝小説風なものを書いて、これを書いた後にふっ切れて小説家一筋になろうと決意したんです。

藤井 作家とジャーナリストには文章表現の面で大きな違いがあると思うのですが、いかがですか。

先生 小説家とジャーナリストの文章の違いはあるけれど、小説家の手本としてジャーナリスト上がりの作家の文章を見ていたので、それほど違和感はなかったですね。ノンフィクションとフィクションの違いは視点の違いだと思うんです。文章表現の違いというものそれほど大きな問題ではないと考えています。

藤井 視点の違いですね。それでは、純文学と大衆文学の区別が分かりづらいというのはどうでしょうか。最近分かりづらいと思うのですが。

先生 純文学と大衆文学というジャンル分けをする必要性を認めていないというか、思っていないんですよ。純文学とは何って問われれば、アンチテーゼとしてエンターテインメントの反対だとかね、区別をしたって仕方がないという気がします。面白い、いい小説か、あんまり面白くない小説という区分けの方が大事です。繰り返し読まれるものはエンターテインメントも純文学も関係ない。結局、小説としていいものかどうかということだけです。広く読まれ再読に耐えうる小説がいい小説ですね。

藤井 先生のおっしゃるように、純文学、エンターテイメント、そしてジャーナリズムとしての文章、すべてを含めて「いいものを書きたい」と思って日芸の文芸学科に来ている学生は多いと思います。僕もそのうちの一人ですが……こうした日芸で先生は教鞭をとっていらっしゃいますが、作家であることと、創作を教える立場である事の違いを教えていただけますか。

先生 小説を書いているほうが楽だね。自分は教育者としては失格だと思う。教える事がないのに、偉そうに喋っている気がしますね(笑)。教壇に立つと自分の未熟さが良く分かり毎回反省している気がします。小説の方だと自分の世界観で好き勝手書いていけるけれど、教壇に立つといろいろ整理して考え方を言わなければならない。いかに自分が不勉強であるかを思い知らされます。小説家は不特定多数の見えない読者を相手に思いのたけを書いていくわけでしょ。自分のストーリーを創作して出していくわけですよ。それに対して先生は授業時間の90分以内にまとめなければならない。至難の業だなぁと思いました。

藤井 小説家も原稿の枚数は決まっていると思いますが、それとはまた違うのですか。

先生 話し方の妙っていうのがあって間の取り方や山場の作り方が下手なのでいつも面白い授業をしようと思っているのですが、小説のようにはうまくいきませんね(笑)。小説は自分で山場や結末を考えて書けるけれど、授業はしゃべる言葉だけでするからこれは別の才能がないとダメだなって思ったね。先生は偉い!

藤井 学生の立場からすると、小説家の先生は作品があれば充分だと思うのですが、それを書いた方と直接話ができる。ナマの何かが伝わってきます。そこでまた質問ですが、小説を書くときにプロットは書きますか。

先生 書く場合と書かない場合があります。新人の頃、自分の世界観とストーリー性に不安を覚えていたときは、ノート一冊分メモ風に書きました。今はそうではなくて、もちろん、小説の種類にもよりますし、長編はメモ書きがないと難しいけれども、100枚以下のものは体の中に何枚で起承転結をつけていくというのが入っていると思います。でもだいたいは、あらかじめコンテはつけずに書けます。主人公のキャラクターから作って、主人公のイメージをクリアにしておいて、そこから小説を考えていく場合もあります。主人公の年齢・体重・身長・思考・友達関係・家族関係までつくり、すぐには小説に出てこなくても人物を想定していく。最近書いている歴史小説は資料を調べ、自分の想像を交えてキャラクターを作る。このやり方だとやりやすいですね。自分に近い登場人物を書くときはやりにくいんですが(笑)。自分に近いから恥じらいもあり書きにくいんです。

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