「ヒゲのOL藪内笹子」を読む

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【嶋村寛人(しまむら・ひろと)】 日本大学芸術学部在学中
 

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 しりあがり寿の名前を知ったのは、つい最近のことである。もっと言ってしまえば、ここで原稿を書くことになるまで、しりあがり寿の名前は知らなかった。そうして、最初に渡された漫画は、「ヒゲのOL藪内笹子」であった。


 「藪内笹子」の名前はともかくとして、「ヒゲのOL」である。まず、この発想のインパクトがすごい。ヒゲのOLという発想を、そのままストレートに漫画の表題に付けてしまう所も面白い。しかし、逆に言えば、笹子はヒゲを生やしていなかったらただのOLになってしまう。もちろん、話の中では彼女がヒゲを生やしていなくてもまったく問題ないものもある。しかし、それでも笹子がずっとヒゲを生やしたままでいることは、彼女の強烈な個性の一つとして、外すことが出来ないものだからだろう。

 

ol.gif漫画は全体的に一定のテンポで進んでいく。単調と言えば単調だが、その一定のテンポというのはものすごい勢いで進められていくので飽きることが無い。加えて、一話毎の短さも読者を引き込むポイントだろう。平均九ページの中には、ヒゲのOL藪内笹子の浮き沈みが見事に描かれている。彼女はちょっといい男と巡りあい、張り切りすぎ、そして、ふられていくのである。一見すると雑だとも取れる絵や表現の仕方が、逆に登場人物の表情や感情を、過剰なまでに分かり易く読者に伝えていると思うし、個人的にはその過剰な部分が、読者を小気味良い笑いに引きずりこんでいるのだろうと思う。

 さて、主人公藪内笹子のキャラクターを見てみると、まず、彼女はヒゲを生やしているにも関わらず、男に好かれる傾向がある。もちろん、付き合ったり、結婚したりして幸せな時間を送ることは滅多にないが、そこに行くまでの課程においては、少なくとも多くの出会いを得ているような気がする。それは恐らく、彼女は外見においてではなく、内面において、常に愛を得ようとする努力を怠らないからであると思う。

 一話の「タリバンの女」において、彼女はタリバンという、トンネル内で段ボールハウスに住む男と出会い、彼が欲しがっている「チンポが大きくなる人形」(この適当な感じがしりあがり寿の特徴なのだろうが)を、本人に内緒で、お金を貯めて買おうと思いつく。二話の「インターネットの女」では、社内の同期がインターネットで結婚相手を見つけたという噂を耳に挟み、自らもホームページを作って、同期の女の子がいう「真実の愛」を見つけようとする。十三話の「イングリッシュの女」では、国内には自分の真実の愛を見つけることができないと諦めた笹子が、英語を学んで海外の愛を求めようとする――。

  しかし、いずれも笹子は、相手を見つけることができず、あるいは、つなぎ止めることができずに「真実の愛」を逃してしまうのである。

 彼女の行動には愛に対するひたむな姿勢が見られる。自分の周りにはいないが、こういう女性は現実の中にも絶対いるだろうなぁと、思わずにやりとさせられる。また、笹子自身に限らず、この漫画に登場する人物が、その端々において、現代の自分たちに通ずるものを秘めているように感じた。

 例えばすぐにホームページを作ろうとしたり、あるいは海外を夢見て英語を習おうとしたりするところは、日本人にそっくりである。
 

 あるいは、四話の「連休の女」で、同期の女性社員たちが会話している所を抜き出してみよう。

「ねーねー連休どこいったの?」
「えーとねー実は私はハワイなの」
「すごーいハワイだって」
「ハワイはすごいよねホント」
「すごいすごい」
「そりゃハワイといったらもうすごいわよ」
「私なんかホンコンで買い物」
「そりゃスゴイわスゴイ」
「スゴイスゴイスゴイったらスゴイ」

 
  一読しただけでは、いかにも単調に見える。これは、最初にも書いたようにしりあがり寿という漫画家の特徴だろうと思う。しかし、単に「どうでもいい部分だから適当に書いている」という風にも取れるが、このブランドという名前だけに対して容易にスゴイという言葉を連発するという部分は、現代の自分たちに当てはまっているのではないかという風に思えた。

 ぱっと流して読んでしまえば、ただのテンポのいい漫画であるけど、じっくりと一コマ一コマ、考えながら追っていって見ると、そこには登場人物たちの真意や、現代の、我々に通ずる何かを映している部分が見られる。単純なギャグマンガとしてではなく、その中に、本編とは違った新たなメッセージを発見することができる。そこが、しりあがり寿の漫画のスゴさであり、面白さであるのかなと思う。

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