作家 群ようこ インタビュー

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インタビューの前に ( text by 山下聖美)

mure6.jpg  群ようこ氏の本を初めて読んだのは2004年1月。仕事に疲れ果てた私はその名もズバリ『働く女』を書店でもうろうとしながら手にとり、レジに進み、そのまま一気に読み切った。それが群ようこ中毒症状のはじまりだった。宮沢賢治、夏目漱石など、他に読まなければならない本が山積みになっていたのだが、おさえがきかなくなっていた私は、いけないいけないと思いながら、まるで悪いことをしているかのように群ようこ氏の本にはまりまくった。まるで自分の生活を客観的に記述してくれているようで、そう!そう!そう!そう!と何度共鳴したことだろう。いつしか群ようこ作品は、私の心の鏡であり、オアシスであり、クスリとなっていた。
 

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作家 群ようこ インタビュー(1)

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 群ようこ氏プロフィール
 1954年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。大学卒業後、いくつかの転職を経て本の雑誌社に入社。在職中に『午前零時の玄米パン』を刊行。作家として独立後、多くのエッセイ集、『無印良女』にはじまる無印シリーズ小説、評伝、などを次々に刊行。人気女性エッセイストとしての地位を築く。

山下 群さんのエッセイには日芸のことがよく出てきますね。デビュー作『午前零時の玄米パン』の冒頭エッセイは日芸ネタですよね。当時好きだった男の子にマフラー編んだっていう・・・
 あれも若気の至りで今考えると全然いい男じゃないのよねー。私もおばさんだから向こうもおっさんよね、もう。でも最初は後光がさして見えたのよ。ぱーっと。そのあと、もの書きの仕事しはじめて、あるパーティーで尾崎豊さんに会ったときも後光がさしてた。すごかったですよ、わたしこんな後光見たことなかった。そうそう、マフラーの人はみんなで「コヨーテ」って呼んでて写真学科でした。なぜかまわりのみんなが私の恋の過程を全部知ってて、ありがたいことに成功させる会とかいうのも作ってくれて。私は授業さぼってひたすらマフラー編んでました。意気込んでマフラーあげたのに、「コヨーテ」はたんたんと普通に受け取ってたわ。

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作家 群ようこ インタビュー(2)

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mure5.jpg――エッセイストが振り返る日芸時代ー―
山下 日芸に来てる人間ならばネタの宝庫ですね。ところで、そもそもなぜ群さんは日芸という大学に来ようと思ったんですか。
 二月に受験した大学、武蔵と成城に落ちちゃって、試験が三月と遅かった日芸を受けてみたの。日芸って目指して来る人多いじゃないですか、でも私ははっきり言って日芸って第一希望じゃなかった。私、都立鷺宮高校で、日芸は学区内の大学だったからその存在は良く知ってたけどね。
山下 日芸は日芸でも文芸学科だったんですね。小さい頃、劇団に入っていたということなので、演劇学科の受験は考えなかったんですか?
 なかったですね。本を読むのが好きだったので、文芸学科は自分の範囲に入ってるかなあと。そもそも劇団に入ってた理由というのが、幼稚園を中退させられたからなんですよ。親がこれではいけないと、もうちょっと社会性を身につけさせないと、と思って劇団に入れたんです。だから演技の練習とかやるんだけど、なんでこんなことしなきゃいけないんだろうって思ってましたね。私にはできないと思ってましたから。

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作家 群ようこ インタビュー(3)

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山下 群さんの一学年上に林真理子さんがいらっしゃいますよね。


 文芸のバルコニーのとこにいつもいて、かなり目立つ方だったらしいんだけど、私は記憶にないんですよね。背が低いから、目線がいかなかったのかも。向こうも私のことは記憶にないらしいです。もの書きになってから、パーティーで二度ほど会ったことあるんですが、開口一番、「若く見えますね」と言われました。あの方は大変なエネルギーの持主よね。私だったら息絶えます。すべて現実にしていくでしょ、あのパワーはやっぱりすごい。私は脱力系の人間なので。林さんに感謝してることが一つあって、あの方がいたから私はエッセイで世に出やすかった。女の人がエッセイだけ書くってことはなかったじゃないですか。エッセイを書くって人は、作家の人がちょっとヒマにエッセイを書くって感じで、エッセイがメインではなかった。ポジションがある人がエッセイを書いたんですよね。エッセイで世に出るというのは、林さんが初めてじゃないかな。で、下品な文章書くとか、どうのこうの、先頭に立って言われてきたんですよね。最初に出た人は、いいも悪いも言われるじゃないですか。ほめてくれる人もいるけど、やっかみ半分にけなす人もいる。そういうのを彼女は一手にひきうけてくれたところがあります。林さんは先駆者として認められるべき人ですよね。もし私が最初に出てたら続けられるかわかんない。へなへなへなっとやられてたかも。

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作家 群ようこ インタビュー(4)

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山下 当時の日芸と言えば、日大闘争が終わった頃で「しらけムード」に突入する時期ですよね。
 そうそう、日大闘争後でしらけた時でしたから、なんか、ぼーっとしてましたね。赤ヘルだか黒ヘルだかの残党が、ビラ配ったりしてたけど、こっちがへらへらしてるもんだから、こいつらに配っても無駄だと思ったみたいです。私たちはみんなほんとにろくなことしてなくて、こっくりさんをやってドアがばたんとしまって大騒ぎしたり、喫茶店でぐたぐたぐたぐたくっちゃべったり。もてない男の子の恋愛相談にのってたら恋人でもないのにすりよってきちゃって、とんでもない目にあったりもしました。あれは時間の無駄でした。

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作家 群ようこ インタビュー(5)

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mure3.jpg――エッセイストが振り返る日芸時代ー―


山下 芸祭は今も昔も日芸の魅力を世間に解放する場ですよね。ところで日芸の魅力って何でしょう?


 日芸はほんとにいろんな人がいました。ゼミ合宿で行った塩原温泉の宿泊所で、私、レズの女の子に言い寄られて、やっぱり衝撃だったわよ。そういう人がいるってのは知ってたけど、まさか同じクラスで友達づきあいしてた人がそうだったっていうのが。私は男の子に混ざっちゃうような風貌で、スカートもはいたことないし、化粧もしたこともなかった。だから仲間と思われたのかな。それから、あの頃は、いわゆる知的未発達障害のような人も実技で受かって入って来てて、ピアノがすごくうまいの! とにかく私たちのときはだらだらしてても許される雰囲気がありましたし、日芸来たら人生決まった、みたいのがあったわね。のんびり人生、みたいなね。本当に就職したいと思うなら、別の学校の方がいいわね。だって芸術学部とか芸術生活と就職というものを結びつけるっていうのがそもそもの間違いよね。だって実生活に役にたたないもの、芸術は。


 それから、日芸は見た目も含めて変態でしたよ。でも話してみると、みんな気のいい人なの。だから、大好きでした。日芸に何を教えてもらったかっていうことより、人との出会いが良かった。その分、社会に出たとき、なんて窮屈なんだろうって思いましたね。日芸って、どんな格好をしてても何も言われないの。着るものがなくてずっと学生服の人もいたし、でも全然平気なの。それが世の中に出ると、あの人あんな格好して何なの? とか人の外見をネチネチ言う人が多いんです。嫌でしたね。世の中ってなんて生きづらいんだろうって思いました。見かけで判断したり、規範からずれていることをいろいろ言うんですよね。

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作家 群ようこ インタビュー(6)

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mure2.jpg――エッセイストが振り返る日芸時代ー―
山下 本の雑誌社と言えば、やはりエッセイで読んだんですが、はじめて書店から取引をしたいという電話がきたときのこと、いまだに書店名と担当者の名前と注文してくれた部数を覚えている、という記述に、なんかじーんときちゃいました。
 そうそう最初は注文来なくて電話こわれたんじゃないかと思ったのよ。ぜんぜん鳴らないから。だから天気予報とか聞いて、あ、つながってるって確認してた。初任給3万円でしたね。そのうち、図書券がもらえるからっていうんで「本の雑誌」に簡単なエッセイを書き始めて、それを見た出版社から依頼がくるようになって、気付いたら原稿料はお給料の三倍になってました。でも私は、勤めはやめたくなかった。父親がフリーで仕事をしていたのでその不安定さは知っていたんです。それでも迷ったのは三十を目前にしたとき。会社で実際にまかされていたのは事務の経理みたいなもので、編集の仕事をしたいっていうのもあったし、書く仕事もしていたので、将来どうしようかなって考えました。

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作家 群ようこ インタビュー(7)

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山下 こうしてお話を聞いてると、群さんの口調がエッセイの文体そのままで、感動してます。話も面白いし。はなし家さんみたいですね。


 群さんは小説より話の方がおもしろいね、なんて言われたこともありました。


山下 私はどちらかというと群さんの小説のファンなんですよ。群さんの小説にはなんというか、さーっとのびた水平線が見える感じがするんです。それから、なんと言っても、おっしゃっていることと書いてることが合致していて、独特の群ようこ文体があるのがいいです。


 文章を練る人っているでしょ。私、練れないんですよ。わりとそのときそのときのリズムで書いてます。瞬間芸。体から出てくるっていうのかな。運動神経みたいなものですね。文章が美しい人っているでしょう、練って練って、そういうの駄目なのよね。練ってるうちにあきちゃうの。もうめんどくさくなっちゃうの。でもね、子供の頃から本読んでて、そういうのが自分の書いてるのと違うので自分のは小説じゃないんじゃないかと思うときがある。だから、どっちかっていうと小説って苦手かな。私はばんばん直球しか投げないから、いわゆる美しい日本語書ける人ってうらやましいですね。私、そういうテクニックないから。

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