「やせ我慢」はどこへ行った?
山下 ところで、坊っちゃんのようなキャラクター、つまり、世間知らずで無鉄砲で、何かに庇護されていて、というようなキャラクターですが、こういう人というのは現代にもよくいますよね。日本で脈々と引き継がれているキャラクターのような気がします。最近ですと「ホリエモン」が出てきたときも坊っちゃんだと思いましたし、もしかしたら、そもそも日本という国そのものが、アメリカの庇護のもとで坊っちゃんであり続けているのではないかとも考えました。
平岡先生は坊っちゃんのキャラクターを「やせ我慢」という特徴の系譜でとらえていますね。

平岡 そう、やせ我慢、そして負けず嫌いというのが坊っちゃんの特徴だと思います。
山下 負けず嫌い、というのが面白いです。勝とう、ではなく、負けてなるものかというのが。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」も、勝つではなく、負けない、ですからね。
平岡 負けじ魂というのは、圧迫された人、下積みの人、陰の人が、それにへこたれて奴隷根性になり、屈従し、おもねていき、権力にすりよる、そういうことができないことなんですね。これは日本人だけじゃないと思うんですけれど、とくに、佐幕派というかたちであらわれていると思います。
結局、日本という小さな国がやせ我慢の精神を捨てたら、大国にすり寄っていって、大国の子分になり、属国になってしまうでしょう。どんなにすり寄った方が楽でも、やせ我慢しないといけない。現在の日本を見ると、とくに小泉内閣は著しかったけれど、やせ我慢がない。すべてアメリカに追従して、イラク派遣でも無傷で終わって、防衛省に格上げした時に脇役の任務だった海外派遣を本務にもってくるということをセットにしているわけですね。
坊っちゃんはやせ我慢なんです。赤シャツに給料を上げてくれると言われて、ありがとうございます、と言えばいいものをそれをしない。山嵐と共に卵をぶつけて帰ってくるわけです。たわいないと言えばたわいない。福沢諭吉がやせ我慢の心理を「我が日本国民に固有するやせ我慢の大主義」と言っていますが、『坊っちゃん』もそれを貫いているというのが私の説なんです。
山下 今はやせ我慢をしている男性はあまり見ないような気が・・(笑) そういう時代なんでしょうか。
平岡 日本の国の有り様もやせ我慢ではないし、人間のあり方もやせ我慢ではない。飽食でしたい放題ですね。「痩我慢の説」で勝海舟、榎本武揚を名指しで非難した福沢諭吉は慶応義塾を起こして、決して明治政府には付かなかった。私も、人生、やせ我慢したつもりでいるけれども、現代に生きているわけだから、それだけでは生きられない(笑)