森詠インタヴュー(1)  ~森詠という人間~

 作家 森詠

インタヴューの前に……(text by 藤井)
「那珂川青春期」。この作品の主人公は将来やりたい事の決まっていない高校生だった。彼と友達は色々な体験をしながら、少しずつ成長していく。時代は学生運動が盛んだった頃で、当時の雰囲気を分かり易く伝えている。しかも、今読んでも色あせていないのがすばらしい。自分の高校時代と主人公のそれとを思わず重ね、懐かしさを感じ胸が震えた。これだけのインパクトを与えてくれ、更にストーリーの中に引き込んでくれた作品が今までいくつあっただろうと考えると、その数の少なさに驚かされた。
これだけの痕を残せる森詠という作家とはどのような人物なのだろうか。

森詠インタヴュー(2)  ?森詠という人間?

 作家 森詠

藤井 先生が作家になろうと思われたのはいつごろですか。またきっかけがあったらおしえていただけますか。

先生 最初は作家になろうとは思っていなくて、世界を飛び回るジャーナリストになりたいと思っていたんですよ。ジョン・ガンサーとかロバート・キャパに憧れてジャーナリズムの世界から物書きの道に入りました。小説家に変わったのは、ある時点で自分はジャーナリストに向いていないという事に気がついたからです。中東の取材に行って辛い悲劇を見てこれをジャーナリズムの方法で書くのはつらすぎると思ったんですよ。もともと空想が好きで、1984年にはっきりとジャーナリストを辞めて小説家になりました。「振り返れば、風」という一種の自伝小説風なものを書いて、これを書いた後にふっ切れて小説家一筋になろうと決意したんです。

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森詠インタヴュー(3)  ?森詠という人間?

 作家 森詠

藤井 もうひとつ、先生の小説についての質問ですが、作品の中でタバコにただ火を点けたという表現はなくて、マッチだったりジッポーだったりが出てくるのですが、小物に対するこだわりがあるのですか。

先生 あります。タバコを吸う行為自体は何の変哲もないわけでしょ。そうすると、いかに人を表すかという事において小物っていうのは大事だと思うんですよ。酒の種類とかタバコでも何を吸っているのかとか、吸い方もあるし。そういうのを印象的に書き込むことによって、小説を膨らます小物は大事だと考えています。僕が好きなのはジッポー・ナイフ・拳銃・飛行機のプラモとか、自動車のプラモとか割と子どもっぽいものなんですが(笑)。

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森詠インタヴュー  ?森詠という人間?(4)

 作家 森詠

藤井 そうなんです。意見がぶれてしまうんです。これが真実だという確信がどうもつかめないんです。これは朝鮮問題に限った事ではなく、すべてに関してです。その点、先生の学生時代には学生運動が盛んだったと思うのですが、当時のパワーがうらやましいというか、不思議というか……

先生 当時の人間関係と今の人間関係は確かに違うのかもしれないけど、当時の人間関係がいいとは思っていないんです。人間を敵と味方かの二分法によって分けて考えてしまいます。だから自分の味方は限りなく許容し、敵は徹底的に憎むんです。意見の違うものを許さないという偏屈なものを人間関係と呼べるかと思っています。いいところは、自分の思想、考え方に突き進めて孤立を恐れなかった。孤立を選んで、自分の生き方を貫く、あるいは少数意見でも言うという信念を持つ若者が多かった。だから人間関係を暖かいものとして繋がりを求めていたなんて事は決してなかった。むしろギスギスしていました。自分自身が若者の時代を振り返った時に小説に書くことはできないです。悲惨で残酷なのでユーモア小説でしか書けないです。自分を道化化して、茶化さないと書けないです。今の若者は優しいし、人間関係をあまり求めないで人付き合いが悪いっていうのは確かにあるけど、昔のギスギスした関係よりよほどいいように思います。

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